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どこかでお会いしましたか?
─ああ失礼。前にどこかでお会いしたような気がしたものですから。
え、私の事をご存知で?
いえいえ、私なんぞはええ、あれですよ。腰巾着と云う奴で。いやいや本当ですって。
いやぁ、私は普段こんな小洒落た店には来ないんですがね。知り合い・・・というか仲間というか、友人というか・・・そう、同志。同志がね、残した店なんで。もういないんですけどねその男も。
─ええ、久しぶりですね。この街に来るのは。変わったようで変わっていない・・・。
おや、あなたもここのご出身で?・・・そうそう、昔は荒れてましたよね、この辺も。
私もねぇ、若い頃はバカばっかやってましてね。いっぱしのギャング気取りで、チンケな悪さばっか。
─きっかけ?そりゃあなた、あの人ですよ。ええ、その人。
やー、衝撃的な出会いってのはあの事ですね。なんたってバットで殴っちゃったんだから。いや、俺がね、あの人を。
─俺はね、いやこんな事云っても言い訳にしか聞こえないでしょうけど、本当にこの街が好きだったんですよ。や、ホント。じゃなきゃチーム名に街の名前なんか付けないでしょ?あ、知らないか。
・・・え、知ってる?・・・そうそれ。へえぇ・・・や、まさかアンタ、いえあなた、もしかしてその時の被害者の1人だったり・・・しない?あ、違うの?そうだよねぇ、アンタじゃ若過ぎるもんねえ。
というかホントに若く見えるけど、まさか未成年って事はないよね?・・・ああいやいや、失礼しました。
─その後?いやもう、謝りまくりよ。近所の奥さんから遠くのご老体まで、いままで迷惑かけた人判るだけ全部、平謝りの土下座行脚。
でもさ、おかしな話だけど、土下座って気持ちイイのね。いや、別に変な趣味じゃなくってさ。なんかこう、開き直りの極致みたいな。煮るなり焼くなりどうとでもして下さいって気分なのよ。
でもそうするとね、向こうは元々善良な市民な訳だからさ。顔上げて下さいって、もういいですって、許してくれちゃうんだよね。そしたらこっちはもう、号泣よ。俺ぁアンタ達の為なら何でもしますーって気になっちゃうのよ。
・・・そうそう、アンタ物知りだね兄さん。『この世で一番贅沢な娯楽は誰かを許す事だ』って奴。あの人も昔よく云ってたなぁ。
娯楽なんて随分ひねくれた言葉だけどさ、許してもらう側の快感ったら実はそれ以上な訳。解るかい?
─俺ね。ホントこの街が好きだったのよ。
それがなんだか訳解んない内に、訳解んない連中がドカドカやってきてさ。新都心だなんだってもてはやされて、子供の遊び場全部潰して。ばんばんビル建てて、商店街なんかドンドン寂れてってさ、それでも新都心さえ完成すればってみんな頑張ってたのに、気がついたらバブルが弾けたとかで、あっという間にゴーストタウンよ。
悲しかったね。悲しくて泣けて怒って。もうこんな街壊れちまえってね。
─ああ、まあね。だからって暴れていい道理は無いやなァ。うん、解っちゃいたんだ。・・・いや、解ってなかったのかな。
ははは、兄さんアンタ優しそうな顔して結構キツいね。いやいや謝んなくていいよ、事実だもん。
─そっか、アンタ誰かに似てるなあって思ってたけど、あの人に似てるわ。昔の。
いや、顔とかじゃなくてね、なんてーか、若いのにやたら物知りなとことか、優しい顔してキッパリしてるとことかさ。・・・あとはあれだ。体ん中に一本真っ直ぐな芯があってさ。ブレねぇの。アンタ似てるよ。あの頃の、犬養さんに。
今?そりゃ今だってもちろんあの人は強いさ。強くて、ブレねぇ。・・・けど、なんかな。ここんとこ、迷ってるみてぇなんだ。迷ってる?違うな、探してんだ。
『誰か』なのか『何か』なのかわかんねぇんだけど、あの人ァこの頃ずっと何かを探してんだよ。
・・・ああ、もしかしたら、アンタみたいな人を探してんのかも知れねぇなぁ。
俺?俺らじゃ駄目なんだろうさ、きっと。情けねぇけどよ。
─知ってるかい?明日、旧猫田スタジアムでさ、・・・そうそれ。なんだやっぱりアンタも来てくれるつもりだったのかい。そうだよな、猫田市民にとっちゃ英雄の凱旋だ。お祭りだよな。
うん、きっと今の犬養さんには、アンタみたいな人が必要なんだよ。一本筋が通っててさ、何があってもびくともしねぇ、アンタみたいな若い人が。
─あ?そりゃもちろん俺ァあの人の傍を離れやしねぇよ。やっと見つけた生き甲斐だもん。地獄だろうがどこだろうがお供しますってーの。
・・・ああ、ありがとよ。兄さんやっぱ優しーねぇ。
あー、なんか変な夜だな、今日は。明日はやること山積みだってぇのに、いいのかなこんなとこでこんな時間まで・・・って、あれ?随分呑んでた気がしたけど、まだ全然じゃねぇの。
─ああ、もうお帰りで?いやいや、すみませんでしたね、つまんない話ばっかり聞かせてしまって。
ところでずっと気になってたんですけどね、あなたの呑んでるそれ。・・・ははあ、グラスホッパーって云うんですか。いや綺麗な緑色ですな。そうですか、グラスホッパー・・・。
─いや、私はもう少し呑んで帰ります。ええ、せっかくですから、グラスホッパーをね。
それでは、おやすみなさい。
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ああマスター、俺にもひとつ頂戴。グラスホッパーっての。
・・・あれ?そういやマスターなんか久し振りじゃない?アンタ確か・・・ええっと、どこ行ってたんだっけ。まぁいいや。
最近どう?俺はさ・・・
END
中村太郎君について本気出して考えてみた。
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文章と絵の人。黒猫属性。
お返事は速かったり遅かったりまちまちです。
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